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AIにおける知的財産の考え方について

「AI白書2017 3.2 知的財産」の自分用まとめです。AIの活用シーンにおける以下の3点についてまとめます。

  • AI生成物
  • 学習済みモデル
  • 学習用データ

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注意:以下に示す内容は現在も議論されている段階です。

AI生成物の著作権保護

音楽や文学作品などのコンテンツを学習することで、新たな創作が可能になりつつあります。たとえばAIを活用して生成された音楽コンテンツには次のようなものがあります。

このようなAI生成物の著作権の取り扱いについて「次世代知財システム検討委員会報告書」には以下の記載があります。

AI生成物を生み出す過程において、学習済みモデルの利用者に創作意図があり、同時に、具体的な出力であるAI生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用して当該AI生成物を生み出したものと考えられることから、当該AI生成物には著作物性が認められその著作者は利用者となる

上記は著作権が認められるケースです。「創作意図」があるかどうかがポイントになるようです。

一方で、利用者の寄与が、創作的寄与が認められないような簡単な指示に留まる場合(AIのプログラムや学習済みモデルの作成者が著作者となる例外的な場合を除く)、当該AI生成物は、AIが自律的に生成した「AI創作物」であると整理され、現行の著作権法上は著作物と認められないこととなる

AIが自律的に生成した成果物は、著作物に該当せず著作権も発生しないと考えられます。

たとえば先のDaddy' Carは、作曲家(Benoit Carre氏)が「ビートルズ風」というスタイルと曲の長さを指定して生成し、作詞・編曲を行っているため、創作的寄与があると考えられます。つまり著作権が発生すると考えられます。

一方で、lamusによる楽曲はAIのみで自律的に制作されているそうです。そのため「AI創作物」として著作権は認められない、と考えられます。

学習済みモデルの保護

学習済みのモデルはプログラムとパラメータで構成されており、著作権法上の「プログラムの著作物」に該当するか議論されています。仮に該当しないとしても、特許法上では「プログラム等」に該当するならば、特許法の要件を満たすなら保護される可能性があります。

また上記に該当しない場合でも不正競争防止法条の秘密管理性、有用性、非公知性といった要件を満たす場合は「営業秘密」として保護されるようです。

(正直、この辺は専門外なのでちょっと難しい。。)

蒸留モデル

学習済みモデルに対して、データの入出力を繰り返し、その結果を別の学習モデルに学習させることもできます。このように作られたものは「蒸留モデル」と呼ばれます。

蒸留モデルは、元のモデルからの依拠性を証明することが難しく、著作権による保護が困難になります。一方で、特許権による保護は、依拠性の立証がなくても認められるため、特許権の範囲での対応も議論されています。

また学習済みモデルの利用規約により、蒸留モデルを禁止する等の契約で保護することもできます。この場合契約当事者以外の第三者から守ることはできないものの、柔軟な対応が可能となります。

学習データについて

AI白書には以下の一文があります。

インターネット上のデータ等の著作物を元に学習用データを作成・解析することは営利目的の場合も含めて、著作権法47条の7に基づいて著作権侵害には当たらないとされており、機械学習活用の促進にとって我が国特有の有用な制度となっている。(AI白書より)

学習データについては著作権法47条の7がポイントのようです。以前、こちらの記事も話題になっていました。

www.itmedia.co.jp

日本はインターネット上のデータを機械学習に活用しやすい一方で、AIの研究開発推進に向けての国産の共有データセット(ImageNetのようなもの)の整備が遅れているとの指摘もあります。

それから著作権法47条の7の規定は、もともと機械学習の促進を想定したものではないため、解釈の仕方や議論の余地が残っています。

共有データセットについての問題

海外にはImageNetやMNIST、MS COCOといった共有データセットが存在します。また、これらのデータを活用して、事前に学習済みのモデルも公開されています。

これらの学習済みモデルは、欧米で作られた共有データセットで作られている点を理解しておく必要があります。そのため日本固有の「ラーメン」のような画像認識ができない、といった問題があります。

参考書籍

AI白書 2017

AI白書 2017